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提案は思い付きで 6

Author: 花室 芽苳
last update Last Updated: 2025-08-14 15:11:28

『……そうだな。アンタにもう一つくらい借りを増やしておいた方が、俺もこの先やりやすいかもしれない。いいだろう、あの男の連絡先を調べて送ってやる』

「……え? 良いんですか」

 逆にあっさりと引き受けてくれて拍子抜けしてしまう。もしかすると明日は槍が降るのかもしれない、なんて思ってしまうのは失礼だろうか?

 意外と神楽《かぐら》 朝陽《あさひ》は、情に訴えればチョロいのかも……?

 しかし、そんな狡い考えはすぐに見破られたようで。

『鈴凪《すずな》の借りが増えるだけのことだし、その分以上にアンタには働いてもらう予定だから。まあ、問題ないだろう』

「……ああ、そういう意味なんですね」

 今回の「お願い」もちゃんと借金としてカウントされていて、未来の私がしっかりと利子をつけて返す羽目になるらしい。

 お坊ちゃんの育ちのわりに、神楽 朝陽はケチな性格してると文句を言いたくなりそうだけどグッと我慢しておく。

 彼は神楽グループの御曹司という立場である。いい加減な貸し借りをやってしまえば、きっと都合良く利用されるだけの存在になるだろう。彼の考え方は企業の上に立つ人間としては間違っていないのかもしれない。

 ……それが私にとっては、都合の悪い事ばかりなのが問題なだけで。

「それで、私がすることは決まったんですか? 今度連絡するって言ってから、まるきり音沙汰無しでしたけど?」

『大体は、な。まあ、それはもう少し待ってろ、先に守里《もりさと》 流《ながれ》の連絡先について調べてやるから』

「ありがとうございます」

 お礼の言葉を聞いているか分からないくらい、あっさりと電話は切られてしまった。それでも神楽 朝陽は絶対に私とした約束は守ってくれる気がして、とりあえずホッと胸を撫で下ろした。

ーーーー

『ありがとうね、雨宮さん。おかげで守里さんからきちんと支払いして頂けたわ。本当に貴女のおかげよ』

「……あ、いえ。それは良かったです。それではもう、私に請求が来るような事はないと思ってていいんですか?」

 流の住んでいたアパートの大家さんから感謝の電話をもらって、私も心配事が一つなくなったことにホッとしていた。

 元カレの連絡先について調べると言ってくれた神楽 朝陽だったが、彼はその理由を知るとわざわざ流に「別れた相手にいつまでも迷惑をかけるな」と釘を刺してくれたらしく……

 神楽 朝陽
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